ワークショップ『行動嗜癖としてのギャンブル障害ー研究と実践ー』(2021.3.6)

開催日時・場所

2021年3月6日(土)13:30~16:50  Webセミナー(Zoom)

講師

木戸 盛年(大阪商業大学・助教)

概要

 今回行われたワークショップでは、講師に大阪商業大学・助教 木戸盛年先生をお迎えし、現在IR事業を中心としてホットな話題である「ギャンブル障害」についてご講演していただきました。木戸先生は、「嗜好行動」をご専門に研究しておられ、ギャンブル障害のスクリーニングに使用される尺度の開発を始め、大阪府で開催の万国博覧会に合わせて誘致をしているIRカジノについての対策等を検討する「大阪府ギャンブル等依存症対策研究会」の研究委員も務めておられます。オンラインで開催となった本ワークショップでは、「ギャンブル障害研究のこれまでとこれからについて」、「ギャンブル障害の治療のために知っておきたいこと」、「ギャンブル障害予防のために知っておきたいこと」の3つの観点からお話していただきました。

 ギャンブル障害研究の歴史の紹介では、まず昨今のコロナによる人々への影響によって様々な行動が生起されており、その中でストレスや不安を感じた時の行動レパートリーとして「ギャンブル」があるとのことでした。本来は嗜好行動であったギャンブル行動が、精神疾患(心の問題)として認められるようになった経緯を、他の依存症の事例を踏まえながらご紹介いただきました。加えて、ギャンブルと法律に関するお話もあり、参加者にとって、意識できていない部分に触れていただくことができました。

 ギャンブル障害の治療に関しては、現在、主要なモデルをご紹介いただき、それらのモデルについて初学者にもわかりやすくご説明をいただきました。ギャンブル障害が、実は私たちが思うよりも身近な障害であることや世界と日本の罹患率の比較、日本のギャンブル産業が国際的にも引けを取らない環境であるとのことであり、驚きを感じられた参加者もいたようです。また、一昔前と現在の治療環境に目を向けると、だんだんと社会に浸透してきている様子が見られるとともに、心理的な理由から受診までには壁があることもお話しいただきました。

 ギャンブル障害の予防に関しては、薬物を使用した人をただ罰するのではなく、薬物を使用してしまっている人の被害をどのように減らすのかという点に注目した「ハームリダクション(Harm Reduction)」という新しい概念をご紹介いただきました。また、その概念を浸透させるための個人に焦点を当てた意識改革から、行政などの社会的な取り組みの重要性、そしてそれを受け入れるにあたっての問題点などを熱く語っていただきました。

 ワークショップ中には、チャットの機能を利用した参加者からの積極的なやりとりもあり、木戸先生のわかりやすい解説を通して、今後の動向が注目されているIR事業とそれに伴って発生すると予想されるギャンブル障害への理解を深めることができました。

(文責:関西学院大学大学院文学研究科博士課程前期課程 関谷祐史)