終了した公開講座

2019.8.25. 開設記念シンポジウム『関西学院大学の心理科学実践』

開催日時・場所

2019年8月25日(日)10:00~13:00  関西学院大学西宮上ケ原キャンパス 社会学部101教室

講師

基調講演:

米山 直樹(関西学院大学文学部・教授・心理科学実践センター センター長)『関西学院大学の心理科学実践』

 

話題提供者1:

東 斉彰(甲子園大学心理学部・教授) 『保健医療分野での実践と課題』

 

話題提供者2:

日下 菜穂子(同志社女子大学現代社会学部・教授) 『福祉分野での実践と課題』

 

話題提供者3:

野田 航(大阪教育大学教育学部・准教授) 『教育分野での実践と課題』

 

話題提供者4:

中山 誠(関西国際大学人間科学部・教授 )『司法・犯罪分野での実践と課題』

 

話題提供者5:

本岡 寛子(近畿大学総合社会学部・准教授) 『産業・労働分野での実践と課題』

 

指定討論者:

松見 淳子(関西学院大学文学部 名誉教授・心理科学実践センター 顧問)

 

司会者:成田 健一(関西学院大学文学部・教授)

オーガナイザー:有光 興記(関西学院大学文学部・教授)

概要

基調講演では、文学部心理科学実践センター長,米山直樹先生から関西学院大学の心理科学実践についてご講演をして頂きました。本学出身の心理科学実践家の多くの先輩方は、学生時代には主に基礎研究を行っており、後に実践家として数々の業績を残しています。その背景には、本学科の特徴が実証主義に基づく心理学で、心理学的問題を究めたことにあります。このようにエビデンスに基づく臨床実践を行う素地があったため、科学者―実践家として活躍してきたことを、米山先生の関学出身者の思い出話とともにご紹介して頂きました。また、関西学院のスクールモットーであるMastery for serviceは、臨床実践が生きる原点であり、自身の利益ではなく世のため人のために奉仕するという姿勢が本学に浸透していることを述べられ,基調講演を結ばれました。

続く話題提供では、公認心理師主要5分野である、保健医療、福祉、教育、司法・犯罪、産業・労働の各分野で活躍されている本学出身の先生方から、それぞれの実践活動についてご講演を頂きました。

最初に、東斉彰先生から保健医療分野での実践と課題をお話して頂きました。先生は,本学心理学科博士前期課程でラットの防御性行動を研究され、その後大学附属病院等の臨床現場で勤務される中、関学での学びが職務へ影響したこととして、事実を客観的に見る目や心理現象の説明をcriticalに思考する力が養われたとお話してくださいました。一方で、実証主義的認識論だけで良いのかという問いも持たれ、人間を相対的、多元的に捉える必要性について述べられました。心理科学実践家の育成・養成では専門職教育の在り方を述べられ、専門職は知識を有し伝達するだけではなく、人の適応、幸福等を促す者としてコミュニティで共存していく存在であることを改めて強調されました。

次に、日下菜穂子先生からは福祉分野、特に高齢者への具体的な実践をお話して頂きました。高齢者が自らを、また社会から弱者として捉えられるのではなく、自ら価値を見出す力を育むために企業や教育機関と協同した研究・実践活動を紹介して頂きました。教育機関との企画では、高齢者が大学の中に入り込み、学生に対して自分たちの取り組みを伝え関わっていく内容であり、また、企業とは地域住民間の共存と商品販売の拡大を試みた取り組みであり、どの参加者も生き生きと楽しんでいる様子をご紹介される中、日下先生ご自身もその取り組みを現場で指導され,楽しまれていることを語ってくださいました。いずれの実践プログラムにおいても最先端の科学的な手法でデータを集めようとする方針も示されました。

3番目にご登壇頂いた野田航先生からは、教育分野での実践として、応用行動分析学を基盤とした学校改革モデルである学校規模ポジティブ行動支援(SWPBS: School-wide Positive Behavior Support)と介入に対する反応性モデル(RTI: Response toIntervention)を説明して頂きました。学校生活における行動面・学業面の問題に対し、個別だけではなく学校全体へアプローチした実際の取り組みをご紹介頂きました。心理科学実践家として個別支援のみならず、学校システムを改革できる専門性があるという、応用行動分析学のマクロ視点を得ることができました。

4番目の中山誠先生は、司法・犯罪分野での実践と課題についてお話をされ、本学で取り組まれた基礎研究が科学捜査研究所という現場でどのように生かされているかと実際の虚偽検出検査を紹介して頂きました。また、新しい質問法の開発に取り組まれている中、質問項目の設定には現場の徹底的な調査による情報が反映されており,その具体的な内容は現場発信型研究の価値を評価したものでした。中山先生は、長年の現場体験を基に、平均値の有意差がある程度では現場では通用しないといった厳しい現実についてもお話くださいました。研究論文の価値について問題提起をなされたお話では、心理科学実践の在り方を積極的に問い続けることが肝要であることをお示し頂きました。

5番目の本岡寛子先生からは産業・労働分野での実践のお話をして頂きました。大学附属EAP(従業員支援プログラム)研究所で復職支援プログラムの一環として問題解決療法を実施されたことや、そこに至る経緯として本学科博士課程前期課程での学習の基礎理論や心理学実験の方法論、後期課程における臨床的問題のケースフォーミュレーション等の学びが、今日の活動に結びついていることをご紹介くださいました。現在、就労で注目されている、発達障害や精神障害のある人の就労移行支援や、がん、慢性疾患患者の両立支援についていてのお話もあり、公認心理師が今後活躍する場として、就労者のメンタルヘルス対策があり、それについても個に配慮したケースフォーミュレーションの有効性を伝えて頂きました。

最後の指定討論では、松見淳子先生が5名の先生方のご講演内容のポイントをまとめてくださり、関西学院大学の心理科学実践についての展望に結び付けてお話して頂きました。ご登壇してくださった先生方は関学での学びの成果を幅広く社会的に還元されていること、そして先生方の視点や職務内容は多様性、発展性に富んでいることを強調され、これから本学科で学ぶ学生に受け継いで頂きたいというお気持ちを述べられました。これより、教育―研究―実践の三位一体の実現について、本学科は方針を変え新しいことに取り組むというよりも、これまで通り科学者―実践家モデルを貫き,一層精進すれば良いという見解を示されました。

 

シンポジウムには、本学卒業生・修了生や学外関係機関の方々が、総計104名も参加してくださり,盛会のうちに終了しました。シンポジウム終了後にも、多数ご好評頂きましたことに感謝申し上げます。